江戸の洒落者たちに人気の袋物屋、神田の三島屋は“お嬢さん"のおちかが一度に一人の語り手を招き入れての変わり百物語も評判だ。村でただ一人お化けを見たという百姓の娘に、夏場はそっくり休業する絶品の弁当屋、山陰の小藩の元重臣、心の時を十四歳で止めた老婆……訪れた客が語り出したのは――

第一話「迷いの旅籠」

子供を病で亡くした領主が喪に服すためと、村に豊作祈願の祭りの中止を申し渡した。村中が喧々囂々となる中、名主の家に居候していた絵描きが村人たちを説得して事を収めてしまった。村の祭りは神様に起きていただく夜祭り。ならば、と。例年とは違う、絵描きが凝らした趣向の美しさに村中が魅せられるのだが、そこに迷い込んできたのは……。

第二話「食客ひだる神」

三島屋がひいきにしている<だるま屋>の花見弁当は絶品。亭主は上総の国から江戸に出て、落ち着いた奉公先で所帯を持った男。母危篤の便りで帰郷した折、道中である怪異を経験する。働き者の亭主はついに念願の弁当屋を構えるのだが、鳴かず飛ばず。そんなある日、店の前でまさかの出来事が。その後の商いは順風満帆。弁当屋を影で支えていたのは……。

第三話「三鬼」

嗣子なしとして改易に処せられた山陰の小藩の元江戸家老が語り手。時の藩主の失政により人心は荒廃し、彼が下級藩士だった頃、妹がむごい事件に巻き込まれた。怒りに燃える復讐者となった彼は、そのかどで険しい山に送り込まれることになったのだが、そこで見たものとは……赤い狼煙が上がると、閉ざされた村に戦慄が走る。前任者の謎の言葉の意味が明らかになった時――鬼がおります。

第四話「おくらさま」

若い娘のなりをした老婆は芝の香具屋の美人三姉妹の三女。家には守り神がいて、姉妹が蔵の中でお香をたくのが仕来り。老婆が十四歳の春、近所に火事が出て隣家まで焼けたにもかかわらず、その香具屋だけは無事だった。しかし……三島屋シリーズ初登場の飄々とした男が大活躍。おなじみの面々も加わり、やがて、おちかの身にも心ゆれる出来事が。